横田建設 再生の記録第13話「生活を整える責任」



配属から一週間。
現場は、まだ「持ちこたえている」状態だった。

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崩れてはいない。
だが、余裕もない。


その裏で―― もう一つの負担が、確実に膨らんでいた。
「生活」の継続だ。


――朝、事務所。
責任者がスケジュールを確認する。
「今日、銀行の追加手続きがあります」
「あと、携帯もまだです」
経営者が眉をひそめる。
「まだ終わってないのか」
「はい。一回じゃ終わらないです」
一つ終われば、また一つ出てくる。
それが現実だった。


――本来。
生活支援の多くは、登録支援機関が担う。
事前ガイダンス。
生活オリエンテーション。
行政手続きの補助。
銀行口座の開設や、携帯電話の契約サポート。
制度上は、整っている。
つまり――
「やるのは支援機関」
それが建前だ。
だが――。
責任者が静かに言う。


「現実は、そこまできれいに分かれません」
経営者は何も言わない。
分かっている顔だ。


――理由は、単純ではない。
まず、「補助」と「代行」の違い。
支援機関は、同行して説明する。
だが、契約するのは本人だ。
本人が理解していなければ、契約は成立しない。


――午前。
携帯ショップ。
店員が説明する。
料金。
制限。
契約期間。
当然、日本語だ。
新人は頷く。
「OK」
だが――
どこまで分かっているのかは、曖昧だ。
横で青年が補足する。
「これ、毎月払う」
「これ、使いすぎると高い」
短く、単純にする。
それでも、完全ではない。
店を出てから、青年が言う。
「多分、半分も分かってないです」

責任者が返す。
「それが普通だ」


――次に、「スピード」の問題。
支援機関は、一社だけを見ているわけではない。
複数の企業、複数の外国人を同時に抱えている。
日程調整。
同行の手配。
どうしても、時間がかかる。
だが、現場は違う。
「今日、必要」
そのズレが出る。


――そして、一番大きいのが「現場への直結」だ。
携帯がない。
連絡が取れない。
それだけで、現場は止まる。
口座がない。
給与が払えない。
それだけで、トラブルになる。
責任者が言う。
「これは待てないです」
だから――
会社が動く。


――昼。
部屋。
洗濯機の前で、新人が止まっている。
使い方が分からない。
青年がボタンを押して見せる。
一度で理解する。
「オー」
小さく声が出る。
青年が呟く。
「こういうのは早いんですけどね」
責任者が言う。
「仕事も同じだ」
見せれば分かるもの。
見せても分からないもの。
その差が、負担になる。


――午後。
登録支援機関から連絡が入る。
「定期面談の件で」
生活状況の確認。
困りごとのヒアリング。
制度上、必要な対応だ。
責任者は答える。
「大きな問題はないです」
嘘ではない。


だが、「細かいズレ」は日々ある。
ゴミ出し。
時間感覚。
通勤経路。
そこまでは、支援機関も常に見きれない。


――夕方。
現場から連絡が入る。
「一人、遅れてます」

理由は、
「電車、違うの乗ったみたいです」
青年が迎えに行く。
駅で合流する。
路線図を指でなぞる。
「ここから、ここ」
新人は頷く。
だが――
明日も同じとは限らない。


――夜、事務所。
報告。
経営者が聞く。
「生活面、どうだ」
責任者は少し間を置いてから答える。
「制度上は支援機関の範囲です」


前提を置く。
「ただ、現場に関係する部分は、結局こっちでやるしかないです」
携帯。
通勤。
理解不足の補足。
「やらないと、現場が止まります」
経営者は静かに頷く。
「どこまでやる」
短い問いだった。
責任者は答える。


「仕事に影響するところは、全部やります」
線を引いた。


それ以外――
制度説明や定期面談は支援機関。
現場直結は会社。
「分けて回します」
経営者が言う。
「いい」


――帰り道。
青年が言う。
「思ってたより、大変ですね」
九郎が答える。
「ああ」
「仕事教える方が楽です」
「当たり前だ」
短く返す。
「生活が安定しない奴に、仕事なんてできねぇ」
青年は黙る。
現場で起きているズレ。
その原因が、少しずつ繋がってきている。
――部屋の明かり。
二人は、まだ慣れていない。
言葉も。
生活も。
だが――
少しずつ整っていく。


――7ヶ月目。
人を雇うということは、
労働力を増やすことではない。
「生活を支える責任を持つ」ということだ。
制度はある。
支援機関もある。
だが、それだけでは足りない。

最後は――
現場に近い者が埋める。
手間は増える。
時間も奪われる。
だが、その先にしかないものがある。


「定着」
それがなければ、
すべては一時的で終わる。
現場はまだ不安定。
効率も戻らない。
だが――
土台は、確実に強くなり始めていた。

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