第15話「伝え方を変えろ」
配属から三週間。
現場は、まだ完全には回っていない。
だが――
崩れなくはなった。
第14話で見えてきた答え。
「言葉ではなく、見せる」
それは確かに効果があった。
ミスは減った。
作業が止まる回数も減った。
だが、それだけでは足りなかった。
新たな問題が出てきた。
「毎回、見せないといけない」
これでは、教える側の負担が大きすぎる。
「全部見せるのは無理だな」
――朝。
現場では、青年が新人に作業を見せていた。
手順を一つ一つ。
順番通りに。
新人は理解する。
そして、動ける。
だが――
別の作業になると、また止まる。
同じことの繰り返しだった。
青年が小さく呟く。
「全部見せるの、無理だな……」
時間が足りない。
それを聞いた九郎が尋ねる。
「何がだ」
「一つ一つ教えるのに、時間がかかりすぎます」
事実だった。
教えれば動く。
だが、その分だけ現場全体のスピードが落ちる。
――九郎が言った。
「だから、“形”にする」
短い一言だった。
青年が聞き返す。
「形、ですか?」
「毎回、同じにするってことだ」
作業を「型」にする
その日から、やり方が変わった。
まず、“作業の型”を決める。
順番。
置き場所。
動き方。
細かい部分まで決めていく。
曖昧な部分を、できるだけなくす。
次に取り組んだのが――
「見える化」だった。
資材の置き場にテープを貼る。
ここに置く。
ここには置かない。
一目見れば分かるようにする。
さらに、写真を撮る。
完成形。
途中の状態。
それをスマホで見せる。
「これ」
言葉は、それだけだった。
言葉を減らす
変化は早かった。
新人が迷わない。
置き場所を間違えない。
作業の順番も崩れない。
青年が気づく。
(考えなくても、できるようになってる)
――昼前。
別の作業でも同じ方法を試した。
最初に“完成形”を見せる。
次に、実際にやらせる。
途中で新人が止まる。
だが――
「これ」
写真を見せる。
それだけで、また動き始める。
長い説明は必要なかった。
ベテランが言った。
「昨日と違うな」
変化は、誰が見ても分かった。
青年が答える。
「やり方、変えました」
九郎は何も言わない。
ただ、黙って現場を見ていた。
「これ」「次これ」
――午後。
さらに一歩進める。
“言葉を減らす”
意識的に説明を短くする。
「これ」
「次、これ」
それ以上は、できるだけ言わない。
その代わりに――
指差し。
動き。
実物。
写真。
使えるものは、すべて使う。
すると――
現場が静かになった。
無駄な会話が減る。
確認も減る。
その分だけ、作業が進む。
青年は感じていた。
(回ってる)
完全ではない。
だが、明らかに違っていた。
イレギュラーで分かったこと
――夕方。
トラブルが発生した。
予定にない作業。
当然、“型”がない。
新人が止まった。
青年も一瞬、迷う。
だが、すぐに動いた。
その場で簡単な手順を作る。
そして――
見せる。
一緒にやる。
新人が動き始める。
対応できた。
青年が気づく。
(応用も、同じなのか)
言葉で細かく説明するのではない。
「見せて、真似させる」
それが基本になる。
「教える」とは、説明することではない
――作業終了。
今日は、大きく崩れなかった。
遅れも最小限。
ミスも減った。
数字には、まだ表れていない。
だが――
確実に変わっている。
事務所に戻り、報告する。
経営者が聞いた。
「どうだ」
責任者が答える。
「言葉を減らしたら、回り始めました」
シンプルな結果だった。
「仕組みにしたか」
九郎が一言。
責任者が頷く。
「はい」
経営者も頷いた。
「それ、続けろ」
帰り道。
青年が言った。
「やっと分かってきました」
九郎が聞く。
「何がだ」
「教えるって、説明することじゃないですね」
少し間を置いて、青年が続ける。
「できる状態を作ることです」
九郎が短く返す。
「そうだ」
さらに青年が続けた。
「日本人でも同じですね」
「言葉でやると、ズレる」
九郎は小さく笑った。
「やっと、そこまで来たか」
――現場は、変わり始めている。
外国人だから、ではない。
誰でもできる形にする。
それが、本質だった。
7ヶ月目
言葉の壁は、消えない。
だが――
乗り越え方は、明確になった。
伝えるのではない。
「伝わる形に変える」
それができたとき、
人は一気に動き出す。
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