横田建設 再生の記録 第12話「住まいを確保できるか」

第12話「住まいを確保できるか」

7ヶ月目。

新しく外国人材を2人受け入れて、数日が経っていた。

現場は、まだ揺れている。

人が増えたことで、作業効率は落ちていた。

指示も増えた

確認も増えた。

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青年は、新人2人の面倒を見ることになり、自分の仕事だけをしているわけにはいかなくなった。

だが――。

九郎たちが直面した問題は、それだけではなかった。

むしろ、これからが本当の問題だった。

――生活だ。

仕事だけでは、人は働き続けられない。

住む場所がなければ、生活そのものが成り立たない。

その当たり前のことが、会社にとっては大きな負担になる。

その現実が、じわじわと重くのしかかってきていた。

――朝。

事務所。

責任者が資料をめくっていた。

「住まい、まだ確定してません」

経営者が顔を上げる。

「仮じゃなかったか?」

「はい。一時的な宿泊です。このままだと期限が切れます」

沈黙。

「部屋を用意する」

言葉にすれば簡単だ。

だが、実際にやってみると、簡単な話ではなかった。

――数日前。

不動産会社。

担当者が書類を確認する。

「外国籍ですか?」

表情が、わずかに変わった。

「はい。就労の在留資格です」

「保証人は?」

「会社で対応します」

「日本語は、どの程度ですか?」

質問が続く。

そして最後に、ほぼ決まったように出てくる言葉。

「一度、オーナーに確認します」

責任者は、その言葉を何度も聞いた。

――数日後。

結果は同じだった。

「今回は見送りで……」

理由は、はっきりしない。

だが、何となく分かる。

貸主側にとっては、外国人を受け入れることへの不安がある。

言葉の問題。

生活習慣の違い。

家賃の支払い。

騒音。

ゴミ出し。

近隣とのトラブル。

一度問題が起きれば、対応するのは大家や管理会社だ。

その不安を、会社側が引き受けなければならない。

それが現実だった。

――事務所に戻る。

責任者が言った。

「三件、断られました」

経営者が小さく息を吐く。

「想定内だな」

そう言ったものの、余裕はなかった。

時間がない。

住む場所が決まらなければ、生活が安定しない。

生活が安定しなければ、仕事にも影響する。

「保証会社は?」

「通してます。ただ、それでも厳しいです」

条件を下げるしかない。

駅から遠い。

築年数が古い。

間取りも狭い。

それでも、なかなか決まらない。

――別の日。

ようやく、一件の話が進んだ。

「二人入居ですか?」

「はい」

「ルールは守れますか?」

担当者の確認は強かった。

ゴミ出し。

騒音。

共用部分の使い方。

近隣とのトラブル。

過去に何かあったのだろう。

責任者は、はっきり答えた。

「会社で管理します」

嘘ではない。

だが、その言葉は同時に――。

会社が責任を引き受けるということでもあった。

――契約成立。

ようやく、住まいが決まった。

だが、終わりではなかった。

――その日。

新しい部屋。

何もない。

冷蔵庫もない。

洗濯機もない。

布団もない。

生活は、ほぼゼロからのスタートだった。

青年が部屋を見回す。

「ここからですか……」

責任者が答える。

「そうだ」

買い出しに向かう。

最低限でいい。

だが、最低限でも揃えるものは多い。

布団。

調理器具。

食器。

洗剤。

日用品。

一つ一つは、それほど高くない。

だが、積み重なると金額は大きくなる。

レジで合計金額を見る。

青年が呟いた。

「結構いきますね」

責任者は短く答えた。

「人を雇うってのは、こういうことだ」

――翌日。

役所。

転入に関する手続き。

保険。

年金。

さまざまな手続きを進める。

番号札を取る。

待つ。

呼ばれる。

そして、説明が始まる。

当然、日本語だ。

新人は頷いている。

だが、本当に理解しているのかは分からない。

青年が横から補足する。

簡単な言葉に変える。

身振りも使う。

それでも――。

完全には伝わらない。

職員が書類を渡す。

「こちらに記入をお願いします」

新人の手が止まる。

読めない。

青年が横に座る。

一つずつ指で示す。

「ここ、名前」

「ここ、住所」

「ここ、電話番号」

時間がかかる。

後ろには人が並んでいる。

焦りも出てくる。

だが、急がせても意味がない。

分からないまま書けば、後でまた問題になる。

――銀行。

口座開設。

ここでも同じだった。

説明。

書類。

本人確認。

確認。

そして――時間。

気がつけば、半日が消えていた。

――夕方。

事務所に戻る。

責任者が椅子に座る。

深く息を吐いた。

「仕事してないのに、疲れますね」

青年が苦笑する。

「現場の方が楽です」

誰も否定できなかった。

――その夜。

経営者が確認する。

「どうだ?」

責任者が答える。

「住まいは確保しました」

「金は?」

「初期費用、家具込みで……想定より上です」

具体的な数字を伝える。

沈黙。

安くはない。

むしろ、重い。

経営者が聞く。

「回収できるか?」

責任者は少し考えてから答えた。

「時間はかかります」

正直な答えだった。

だが、続ける。

「ただ、これをやらないと定着しません」

経営者は頷いた。

分かっている。

住まいが不安定なら、仕事も安定しない。

生活が崩れれば、働き続けることも難しくなる。

そして、仕事が続かなければ、会社が負担した教育や受け入れのコストも回収できない。

すべては繋がっている。

――帰り道。

青年が言った。

「仕事だけじゃないんですね」

九郎が答える。

「ああ」

「むしろ、そっちの方が大変かもしれないです」

「当たり前だ」

九郎は前を向いたまま言った。

「人を使うってのは、“生活ごと抱える”ってことだ」

青年は黙った。

その言葉を、何度も頭の中で考えているようだった。

ただ働かせるだけではない。

ただ人数を増やすだけでもない。

「続く状態」を作らなければ、意味がない。

――その夜。

新しい部屋に明かりがついていた。

二人の新人が、新しい生活を始めている。

まだ不安定だ。

まだ不完全だ。

家具も十分ではない。

日本での生活にも慣れていない。

それでも――。

止まってはいない。

ようやく、一つの土台ができた。

「住める」

それだけのことが、次の一歩を支える。

――7ヶ月目。

人を増やすということは、

仕事を増やすことではない。

責任を増やすことだ。

見えない負担。

数字に出ない手間。

現場では見えない仕事。

行政手続き。

住居の確保。

生活用品の準備。

そして、日常生活のサポート。

それらを引き受けて、初めて外国人材の受け入れは動き始める。

現場は、まだ不安定だった。

効率も、以前の水準には戻っていない。

だが――。

土台は一つできた。

「住める場所」ができた。

そして、その土台の上で、二人は日本での生活を始めた。

九郎は、ふと思う。

人を増やす。

その言葉の裏には、これだけの仕事が隠れている。

採用して終わりではない。

入国して終わりでもない。

現場に配属して終わりでもない。

働き続けられる環境を作る。

そして――。

会社にとって「必要な人材」になってもらう。

そこまでやって、初めて受け入れが成功したと言えるのかもしれない。

だが、まだ問題は残っている。

新人二人は、仕事を覚えなければならない。

青年は、二人を教えなければならない。

会社は、投資したコストを回収しなければならない。

そして何より――。

この3人が、本当に一つのチームになれるのか。

7ヶ月目。

新しい生活の明かりが灯った。

だが、現場の本当の勝負は――。

これからだった。

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