第16話「ルールで回す現場」
私が所属している会社(登録支援機関兼・外国人紹介事業)の本業は建設業です。
今回は、実際に現場で働く人たちからさまざまな声を聞き取り、それをもとにブログを作成しました。
配属から一ヶ月。
現場は、止まらなくなっていた。
大きく崩れることはない。 致命的なミスも減った。
だが――
「速くならない」
ここが次の壁だった。
――朝、事務所。
数字が並ぶ。
売上は横ばい。 利益率も変わらない。
経営者が言う。
「安定はしてきたな」
責任者が頷く。
「はい」
少し間を置いて、
「でも、伸びてません」
空気が止まる。
“回る”と“伸びる”は違う。
そこに、全員が気づいていた。
――現場。
動きは揃ってきている。
新人も、迷う時間は減った。 指示の回数も減っている。
だが――
人によって、微妙に違う。
早い人。 遅い人。 丁寧な人。 雑な人。
その差が、全体のスピードを落としていた。
――午前。
同じ作業。
ベテランは、流れるようにやる。 新人は、同じ手順でもワンテンポ遅れる。
青年が見ている。
(やり方が違う)
大きくは違わない。
だが、細かく違う。
持ち方。 置き方。 動く順番。
その積み重ねが、差になる。
――昼前。
九郎が言う。
「揃えろ」
短い一言。
青年が聞き返す。
「何をですか」
「全部だ」
曖昧なようで、明確だった。
――午後。
“ルール化”が始まる。
まず、作業を分解する。
一つの工程を細かく区切る。 手順を洗い出す。
どこで迷うのか。 どこでズレるのか。
全部出す。
――次に、“正解を決める”。
誰のやり方が正しいのか。
速いだけではダメ。 丁寧なだけでもダメ。
基準にするのは、
“再現できるか”
ということだった。
ベテランの動きを見て、調整する。 無駄を削る。 複雑さをなくす。
シンプルにする。
――そして、“ルールにする”。
手順を固定する。 順番を変えない。
まずは徹底する。
――青年が感じる。
(これ、厳しいな)
自由が減る。 自分のやりやすい方法が使えない。
だが――
九郎が言う。
「自由にやらせるのは、最後だ」
順番の話だった。
「まず揃えろ」
――現場に戻す。
ルール通りにやる。
全員、同じ動き。
最初はぎこちない。
ベテランがやりにくそうにする。
「前の方が早いぞ」
声が出る。
九郎が即答する。
「今は遅くていい」
迷いがない。
「揃える方が先だ」
――一時間後。
変化が出る。
動きが揃う。 無駄な確認が減る。 タイミングが合う。
結果――
流れができる。
青年が気づく。
(繋がってる)
個人ではなく、全体で動いている。
――別の変化。
新人が迷わない。
考える場面が減る。
“決まっている”からだ。
やることが明確になる。
それだけで、スピードが上がる。
――夕方。
イレギュラーが発生する。
一部の資材が遅れる。
通常なら、現場は止まる。
だが――
ルールがある。
どこまで進めるか。 どこで止めるか。
それが決まっている。
全員が同じ判断をする。
現場は止まらない。
――作業終了。
数字は、まだ大きく変わらない。
だが――
手応えが違う。
“バラバラではない”
それだけで、現場は軽くなる。
――事務所。
報告。
経営者が聞く。
「どうだ」
責任者が答える。
「揃えたら、流れが出ました」
シンプルな結果だった。
「個人差が減ってます」
経営者が頷く。
「それが組織だ」
――帰り道。
青年が言う。
「今まで、個人でやってました」
九郎が答える。
「そうだな」
「上手いやつに合わせるんじゃなくて、全員を合わせるんですね」
少し間。
九郎が言う。
「誰でもできる形にしないと、増やせねぇ」
核心だった。
一部の人間だけで回る現場。
それでは、拡大できない。
――さらに続ける。
「外国人だからじゃねぇ」
九郎の言葉。
「日本人でも同じだ」
青年は頷く。
分かってきている。
――現場は変わった。
言葉に頼らず。 個人にも頼らない。
“ルールで回す”
それが、形になり始めた。
――7ヶ月目。
増やすための準備は、整いつつある。
だが――
まだ途中だ。
本当の意味で回るかどうかは、
これから試される。
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