横田建設・再生の道 第5話 決めた責任②
外国人を受け入れる準備を進める一方で、九郎にはもう一つ気になることがあった。
社内の反応だ。
ある日、ベテラン社員たちに話した。
「外国人を一人、入れることにした」
当然のように質問が飛んできた。
「大丈夫なんですか?」
「言葉、通じるんですか?」
「すぐ辞めたりしません?」
不安の声が次々に出てくる。
九郎は、少し考えてから答えた。
「分からん」
一瞬、空気が止まった。
しかし、九郎は続けた。
「分からんけど、このままでも回らんのは事実だろ」
誰も反論しなかった。
人手が足りない。
このままでは会社を維持していくことそのものが難しくなる。
だから、新しい方法を試すしかない。
九郎は言った。
「だから、やる。失敗するかもしれん。でも、その時はまた考える」
綺麗な説明ではなかった。
だが、現実にはそれしかなかった。
しばらくすると、社員たちの反応も少しずつ変わっていった。
「じゃあ、俺らも教えないとですね」
「最初はゆっくりやらせましょうか」
完全に不安が消えたわけではない。
それでも、「外国人を入れることへの不安」から、「どうやって一緒に働くか」という話に変わっていった。
そして数週間後。
支援機関から連絡が入った。
「在留資格認定証明書、交付されました」
九郎は、しばらくメールの画面を見つめていた。
「……来るのか。本当に」
これまで書類の上で進めてきた話が、急に現実になった。
青年が日本へ来る。
横田建設で働く。
用意した部屋で生活する。
そこからは時間の流れが一気に速くなった。
入国日の調整。
航空券の手配。
空港への迎え。
会社側のスケジュール調整。
気がつけば、来日まであと一週間だった。
「早すぎるだろ……」
嬉しさよりも、緊張の方が大きかった。
ちゃんと仕事を教えられるのか。
現場は回るのか。
言葉の問題は大丈夫なのか。
トラブルが起きたら、どうするのか。
考え始めれば、きりがない。
そして、来日前日。
九郎は、用意した部屋に一人で立っていた。
新品の布団。
最低限の家具。
冷蔵庫や電子レンジ。
まだ誰も生活していない、静かな部屋。
九郎は、ゆっくりと部屋を見渡した。
「……ここで始まるのか」
明日、この部屋に一人の青年が来る。
そして、横田建設の一員になる。
九郎は、そこで初めてはっきりと感じた。
これは単なる採用ではない。
一人の人間の人生に、自分たちの会社が関わることになる。
完璧な準備ができたわけではない。
不安も消えていない。
それでも――
「軽い気持ちじゃ、やれねぇな」
九郎は小さく笑った。
「まあ、やるしかねぇか」
部屋の電気を消す。
明日は、空港へ迎えに行く。
今日まで書類の中にあった「候補者」が、明日からは一人の社員として目の前に現れる。
九郎は、静かに扉を閉めた。
横田建設の再生は――
いよいよ、紙の上から現実へ動き始めようとしていた。
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